イヌ  
    シナリオライター 松島恵利子さんが書く

   「ホッとする、おはなし」

                        by喫茶去

    ライン

            第1回 腰パン少年とおばあちゃん   

駅のホームでの出来事です。
中学生くらいの男の子が電車待ちをしていました。

キャップを逆さにかぶり、
派手なロゴ入りパーカーのポケットに手を入れて、
不機嫌そうにしているその姿は生意気そのもの。
おまけに腰ではいたジーンズからはトランクスが丸見えで、
つい「今時の子は…」と言いたくなるようなタイプでした。


すると、一人のお婆ちゃんが少年のもとに、
トコトコと小走りにやってきました。

そして、彼の腰のあたりに手を置いて、すこし小さな声で
「僕、パンツ、パンツ」と、言ったのです。

どうやらお婆ちゃんは、「あの坊やったら、
パンツが出てるのに気付いてないわ、
教えてあげなきゃ」という気持ちで声をかけたのでしょう。
少年がわざとそうしているのを知らないで…。


しかし、その時少年が思いがけない反応を見せました。
お婆ちゃんの言葉にちょっと驚いた顔をして、慌ててジーンズを上げ
「あ、すいません。どうも」と、
ペコっと頭を下げたのです。まるで、
お婆さんの勘違いに合わせてあげるように。



「見た目で人を判断するのはいけない」と言いながらも、
どこか少年のことを色眼鏡でみていた自分が恥ずかしくなると同時に、
お婆さんの優しいお節介を、
実にさりげなく汲み取った少年の素直さに心が洗われました。


人って素敵だなぁ〜。

  

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